Worker Co-operative という選択肢

自営で造園業をしていた頃を振り返ると、それはもう楽しかった。自分の裁量ですべて決められるし、会社の看板なしで人との縁を紡ぐことができるし、とても充実していた。
でも経済的に不安定という大きな問題はあった。有休ない、各種手当ない、退職金ない、ボーナスない。来年仕事があるかわからない。
安定と充実の福利厚生を求めて会社勤めを我慢するか(私の場合は、という話です)、不安定でもやりたいことを自営でするか(インボイス制度導入で負担が大幅に増えそうだし)。この二者択一を迫られるのは、結構厳しい、難しい。

欧米ではworker co-operative(労働者協同組合)という、自営でも会社員でもない働き方が選択肢として確立されているらしい。

20年ほど前、タウン紙の記者をしていたときに、日本のワーカーズ・コレクティブについて取材をしたことがある。働く人が出資し、経営に責任を持って、地域貢献の事業を行う労働者協同組合のひとつの形だ。協同労働というあり方に希望を感じたけれど、取材を受けてくれた、とあるワーカーズ・コレクティブの代表の方の「悔しいけど、今はこの仕事だけで食べてはいけないのよね」という言葉も強く印象に残っている。だから、その当時は、リアルな働き方の選択肢の一つとしては考えられなかった。

でも、流れは確実に変わっている。
資本主義経済の世界的な行き詰まり、パンデミック、気候変動などの問題を受けて、既存の経済のあり方、ライフスタイル、さまざまなものが大きく見直されつつあり、その流れのなかで、worker co-operativeという働き方にも注目が集まっている。
法整備が遅れていた日本でも、労働者協同組合法が2020年12月に可決され、2022年度中には施行されることなっている。
これは、ひょっとすると、もしかして、本当に選択肢の一つになるかもしれない。


ところで、そもそも worker co-operative(労働者協同組合)とは何なのか。

US. Federation of Worker Cooperatives(アメリカ労働者協同組合連合会、とでも訳せば良いのでしょうかね)のホームページには次のような記述がある。

「労働者協同組合は、働く人とコミュニティのことを第一に考える事業です。一般的な企業と違うのは、組合のメンバーが、民主主義的な手法によって、事業の運営、利益の分配などの決定に参加するという点です」

Worker cooperatives are values-driven businesses that put worker and community benefit at the core of their purpose. In contrast to traditional companies, worker members at worker cooperatives participate in the profits, oversight, and often management of the enterprise using democratic practices.

https://www.usworker.coop/what-is-a-worker-cooperative/ より引用


ここでいうコミュニティは、単に地域社会ということではないだろう。インターネットの発展は、空間を共有しないコミュニティを多く生み出した。というよりも、地球全体をコミュニティととらえる視点が不可欠になったといえるかもしれない。
ともかくも、いかに儲けるかを第一に目指すのではなく、そこで働く人と社会の利益(言うまでもなく金銭的な話に限定されない)を優先するということがポイントだろう。

そして、もう一つ重要なのは、その運営が、トップダウンではなく、働く人全員による民主的な手法によってなされるということだ。
一般的な会社において事業方針や利益配分などを決めるのはいわゆる経営陣や株主の仕事であって、社員は決められた方針に従って働き、利益の分け前についても口を出せる立場にはない。しかし、労働者協同組合の場合は、組合のメンバー全員が、事業方針や利益の配分について意見を出すことができるし、またそこに責任を持つということだ。当然そこには異なる意見が存在するはずで、一人で経営をする個人事業主ともまた違う。意思決定という点では結構めんどくさい。でも、これが民主主義ってやつだろう。
とういうことは、労働者協同組合というのは、社会をどう運営していくかというレベルの“政治”の小さなモデルでもある、といえる。労働者協同組合で働くということは、同時に民主主義の世の中を志向するということに他ならない。
考えてみれば、会社って全然民主主義じゃない。ビジネスはスピードが命だから、みんなで話し合いをして合意形成をして、なんて悠長なことを言ってられない。そういう企業文化の中でなんとか必死で生き残ろうとしている人たち(私も含めて)が、国家や社会の運営に関しては民主主義を断固として求める、というのは理屈としてはかなり無理がある。学校にしても、“民主主義的ではない社会”で活躍できる人材の育成を要請されているために、全体としては民主主義教育をするシステムになっていない。
そうか、だから自民党が選挙で勝つのか。

話がそれた。

Good Scenery Commonsが労働者協同組合というかたちをとるかどうかはまったく未定だけど、その理念には大いに賛同するところで、もう少し研究してみようと思う。


(2021.12.5)


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