クラウドファンディングについての覚書

クラウドファンディングは、インターネットを通じて不特定多数の人たちから、比較的少額の資金を提供してもらう仕組みです。単なる資金調達の手段というだけでなく、新しく開発した製品を商品化するべきか判断するためのテストとしても使われています。

一人一人の支援者に出してもらう金額はそれほど大きなものではありませんが、プロジェクト全体では、数千万円規模のものもありますし、最近では法隆寺の維持管理費用が2千万円の目標に対し、1億円を超える支援が集まったりもしています。

目的はビジネス(非営利を含む)に限りません。地域振興、歴史遺産の保存、動物保護、個人のチャレンジ応援など、さまざまな分野で活用されています。

クラウドファンディングの概要の説明は他に譲るとして、極小規模ながら経験した者として今後の参考になるようなことを記録として残しておければと思います。


①プロジェクト開始よりずっと以前から始まっている

法隆寺のような知名度のあるプロジェクトならいきなり始めても支援が集まる可能性は高いですが、無名の人のプロジェクトは1~3か月ほどの支援募集期間で簡単に達成できるものではないように思います。資金調達に成功したプロジェクトを見ていると、クラウドファンディング開始前から一定数の支援者がいて、開始直後に支援がある程度集まっているようです。

日頃から「こんなことをやりたいと思っている」と話したり、情報を発信したりしながら、プロジェクトへの理解と共感、信頼関係を育てておく必要があると思います。


②目標額は達成見込みの立つ額にする

クラウドファンディングは、目標額に達しなければ支援金を受け取ることはできないというかたちが一般的です。プロジェクト予算から調達希望金額を算出しても、支援が集まる見込みがなければ意味がありません。

よく目にする2:8の法則、あるいは2:6:2の法則。クラウドファンディングで言えば、支援のお願いをした人の中で、実際に支援をするというところまで行動を起こしてくれるのは2割程度と考えればよいのではないでしょうか(裏付けはありません)。いくらプロジェクトに共感しても、実際にあれやこれやの手続きをして資金を提供するということはハードルが高いものです。忙しくて、手続きができなかった、というケースもあります。資金提供以外の支援をしたいと思う人もいるでしょう。

実際に支援をしてくれる人の思いにこたえるためにも、目標金額は現実的なところで設定する必要があります。


③クラウドファンディングを通じてできた人間関係を大事にする覚悟

資金を集めるだけなら、融資を申し込んだほうが楽かもしれません。利子はかかりますが、お金だけの関係。借りて、返せば終わりです。クラウドファンディングの場合、支援者に対しリターンと呼ばれるお返しを設定しますが、それで終わりというわけではありません。プロジェクトで掲げた理念を実現すること、支援者の期待の応えること、お金に換算できない負債を負うのがクラウドファンディングだと思います。

負債と書きましたが、それはすなわち人間関係そのものです。たとえばプレゼントや季節の贈答などのやり取りを重ねながら社会的な関係が築かれていきます。人と人との関係は、まったくイーブンということはありえません。貸し借りを繰り返すから、別の言い方をするなら、助け合うことをするから、その人との関係が濃いものになっていきます。

市場はそういう人間関係の煩わしさからフリーになる場として設定されました。お金を払ってやり取りが終わればそれで完結。コンビニで買い物をするたびに店員さんと強いきずなで結ばれていく、ということは一般的には起こりません。
濃厚な人間関係ばかりでは息苦しいかもしれません。だからといって、なんでもお金で解決する人生は、楽かもしれませんが、たぶん面白くない(なんでも解決できるほどお金を持ったことがないから推測に過ぎませんが)。

「無縁」の場である市場と縁によってつながる共同体、そのどちらも人間にとって必要なものなら、市場原理とは違う原理で動く場をもっと充実させていくことが今やるべきことでしょう。クラウドファンディングという仕組みには縁を紡ぐ力があるように思います。

(さらに付け加えるなら、クラウドファンディングを通して受けた支援は、支援者だけに返すのではなく、プロジェクトの実行やそれ以外の方法を通して世の中に還元していくわけですから、1対1の人間関係にとどまらず、社会的に大きな広がりをもった運動になります。実際、支援を受けてみると、自分の支援を必要とする人がいれば喜んで手を貸したいと強く思うものです)。


ところで、想定していなかったことですが、クラウドファンディングに取り組む過程で、これまでの生き方、特に対人関係の在り方を省みることになりました。これは愉快とばかりは言えないものです。易きについてしまったんだろうと責められたり(自分で自分を責めてるんですけど……)。

ご縁とご縁ある人を大切にすること。結局それに尽きるのかもしれません。


(2022年8月18日)


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