海賊モデル

「海賊」と聞いて頭に浮かぶイメージはどんなものだろう? 

たとえば『パイレーツ・オブ・カリビアン』のジャック・スパロウ、『ピーター・パン』あるいは『ジェイクとネバーランドの海賊たち』のフック船長、『ONE PIECE』のモンキー・D・ルフィ、黒ひげ危機一髪、『宝島』のジョン・シルバー、北欧のバイキング、『村上海賊の娘』の景、『ひょっこりひょうたん島』のドン・ガバチョ……。ん?ガバチョは海賊じゃないか。

海賊と一口に言っても、場所も時代も、そのあり方も多種多様でひとくくりにできない。
で、今回は、パイレーツ・オブ・カリビアン、すなわちカリブの海賊の話。

18世紀初頭は海賊の黄金時代と呼ばれ、黒ひげことエドワード・ティーチなど今もその名を知られる海賊たちがカリブ海を荒らしまわっていた。
海賊たちはそれぞれの掟を持っていて、その一部がいまに伝えられている。

たとえばこんな感じだ。


 〇戦利品は平等に分配する。ただし、船長は2人分、操舵手は1.5人分の分け前を得る。

 〇戦利品などを盗んだ場合は、無人島に置き去りにする。

 〇戦闘中に負傷し、障害を負った者には、共有貯蓄の中から補償する。


などなど。

それぞれの船が、かなり細かい決め事を持っていたらしい。

船長などの分け前は多く設定されているが、それでも2倍程度。しかも船員たちに酒をおごったりするなど、船長には出費が多くあったことを考えれば、経済的な格差はほとんどないに等しい。

障害に対する保険制度まで持っていたというのだから、絶対権力者の船長とその手下というイメージとはずいぶん違う。

もちろん、そういう船長もいたかもしれないが、強権的で利己的な船長は船員にそっぽを向かれてしまったに違いない。
なにしろ、海賊船の乗組員には一人一票の投票権があって、新しい決め事を発議して投票で決めたり、船長のふるまいに問題があれば、投票で新しい船長を選ぶということもあった。船長についていけないと思えば、別の船に乗り込む、という選択肢もあった。
だから船長は、乗組員たちが不満を持たないよう、自分勝手なふるまいはできなかったに違いない。

一方、海賊たちが獲物としたのは、たとえばアフリカから奴隷を運び、奴隷に作らせた綿花や砂糖をヨーロッパに持っていく、いわゆる三角貿易で莫大な利益を上げていた商船などで、その船においては国家から船長に絶対的な権限が付与されており、水夫たちは厳しい環境で働かされた。
積荷としての奴隷よりも、水夫たちのほうが死亡率が高かったという記録もある。
障害を負ったり、感染症にかかれば捨てられる。まさに使い捨てだ。
当然、賃金には天と地ほどの差があった。

乗っていた船が海賊に襲われ、そのまま海賊の仲間になる水夫も多かったらしいが、よっぽど商船での待遇が酷かったのだろう。
そういう背景を持つ海賊たちが、絶対的な権力を嫌い、一人一票の投票権のような民主的なルールを持ち、保険制度まで保持して仲間を見捨てないようにしていたのもうなずける。
もう奴隷のように働かされ、使い捨てにされるのはごめんだって。

だいたい、イギリスは自国の利益のために、海賊たちに他国の船を襲う権利を認めて、略奪行為を推奨してきたのだ。海賊を利用しながら、非ヨーロッパ世界との不当な貿易で莫大な富を吸い上げていた国家や資本家と比べて、海賊だけが悪党であったとはとても言えない。
もちろん、海賊は実際に略奪をしていたわけだし、それ以上の狼藉を働く者もいたのだから、海賊をヒーローというのも違うとは思いますけど。

ちなみに、アフリカから新大陸に運ばれた奴隷出身の海賊も数多くいて、船長になった人もいたらしい。
もめ事を避けるためか、女性は船に乗せなかったらしいけど、ジャック・スパロウのモデルになったといわれるジョン・ラカムの船には、アン・ボニーとメアリー・リードという女性の海賊が乗っていて、男たちよりも勇敢に戦ったという話も残っている。
当時の常識からすれば、海賊はあまりにリベラルというのか、とにかくおもしろい。


なぜ海賊の話をしているのかというと、これがGood Scenery Commonsの運営体制のモデルになるような気がしているからだ。

そもそもWorker Cooperativeの原則と共通するものが海賊の掟には多い。
給与の差に制限をかけるところとか、一人一票の議決権を持たせるところとか。
さすがに、無人島に置き去りの刑とかはないけど。

商船と海賊、大企業とWorker Cooperativeという対比で見ると、その構図に似ている部分がある。そうだとすると、共通する掟、原則があるのは必然なのかもしれない。
海賊の掟がベストであると言いたいわけではない。集団のサイズや目的によって、最適な統治システムは異なるはずだから、そこは検討の余地があるだろうという話だ。

そういえば、前回の地域通貨についての記事で触れたカタルーニャ総合協同組合のエンリック・ドゥランもなんだか海賊っぽい。実際に銀行のお金をだまし取ってるし。
国家や企業の支配から自由に生きることを目指しながら、国家の税制を逆手にとる戦略を立てるというようなしたたかさを持つというところも海賊に通ずるものがある。


海賊がこういう掟を作ったその根底には、人間の弱さへの自覚があったと思う。

戦闘による死傷はもちろん、船上は病気のリスクも高かったし、捕まれば縛り首。
恐怖や欲望に振り回され、人を裏切ったり、その精神を病んだりということもあっただろう。
人間の身体は脆く、心も壊れやすい。

その弱い生き物である人間が生き延びるにはどうすればいいのか、という切実な危機意識が、平等な分配、相互扶助、そして権力による支配の拒否という原則を生んだのではないか。

強い(と自分が思っている)人に、平等と助け合いのシステムはいらないですもんね。


いわゆる海賊の黄金時代はわずか10年間ほどしか続かない。イギリスが海賊討伐に本腰を入れて、あっという間に衰退した。
しかし、その海賊たちは、21世紀の今も人々を魅了し続けている。大人も、子どもも。
そこには人間にとって普遍的な何かがあるからに違いない。


さあ、もうすぐ船が出るぞ。
Good Scenery Commons号に乗りこもうというのはどいつだ?
この航海の先に待っているのは何かって? そんなの知ったことか。
海賊の歌が聞こえる。歌え、腹の底から!


ヨーホー、ヨーホー、俺たち海賊~♪


(2022年3月2日)


ー------------------------

Good Scenery Commonsのホームページはこちら




人気の投稿